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「Starfield」レビュー。アーティファクトを巡る宇宙の「謎」を解き明かすハードSFゲーム

Game

 西暦2330年。人類は太陽系をはるか離れ、新たな惑星を開拓しながら、宇宙を旅する時代を迎えた。主人公(プレイヤー)は、鉱山での採掘中に「アーティファクト」と遭遇したことをきっかけに、銀河中を巡る宇宙探検家集団「コンステレーション」と出会う。コンステレーションが探し求めるアーティファクトとは一体、何なのか。誰がアーティファクトを作ったのか? 人類とアーティファクトとのつながりとはいかなるものなのか。

 Bethesdaの最新作である「Starfield」の最も大きな特徴は、ゲーム内の行動全てが、プレイヤーの選択に委ねられていることにある。ぶっちゃけると、アーティファクトの謎を解くこと自体、後回しでも構わないレベルの自由度だ。

 正義感あふれる船長として宇宙で生きる人々の困難に立ち向かってもよし、巨万の富を得るために海賊としてさまざまな民間船を襲うもよし、気に食わないやつを撃ち殺すのはもちろん、幻覚作用のある違法な薬の作り方を学んで、ウォルター・ホワイトみたいな遊び方をするのも、風光明媚(めいび)な場所を求めて探索し、スタイルに応じた拠点を構える遊び方でも全く問題ない(※)。

 誰から急かされることもなく、好きなときに好きなタイミングで気になること、やってみたいことをやればいいのだ(※メインストーリーのミッションは、魅力的なサイドミッションに出会うための補助線でもあるため、遊び方が分からなければメインストーリーに沿って他の惑星にジャンプし、メインストーリーは放置しつつ探索することを推奨する)。

机の上のトランプ1枚がアイテムとして存在――精緻に描かれる人類の宇宙進出

 既存のスペースシムが「宇宙空間」の再現など、宇宙の表現に重きを置く一方、Starfieldは、宇宙に進出した人類の生活様式や価値観、文化の表現に重きを置く。

 西暦2330年の人類はどのような生活を送っているのか、何が人々にとっての価値であり、何が人々にとっての娯楽なのか。地球を離れ生活するとは一体何を意味するのか。あるいは未開拓の辺境の基地で医師として働くのは楽しいのか。2308年に起きたコロニー戦争とは何だったのか、そもそも人類はなぜ、太陽系から離れたのか。

 ニューアトランティスにある博物館で、ニューホームステッドのウォーキングツアーで、辺境の惑星で捨てられた研究施設で、宇宙を彷徨う船の中で、登場するキャラクターの言葉やその場所に残された数々のアイテム、痕跡、データ端末の日記など目に入る要素から、結末に至るまで何があったのか、垣間見ることができる。

 既存のスペースシムは、宇宙に特化しているからこその面白さがある。だがシミュレーションを優先した分、作品内の個別具体的な要素が簡素になったり、実装が先送りになったりすることも多い。Starfieldは基地の中にある机の上のアイテム1個1個が自然に置かれているように、宇宙の部分はほどほどに、探索する場所のディテールにこだわって開発されている。

Bethesda が掲げる「NASAパンク」の良さ

 Starfieldを遊んでいると、このディテールのこだわりに驚かされる。Bethesdaはこのこだわりを「NASAパンク」と名付けている。

 NASAパンクは、NASA(米国の宇宙機関)が示すような極めて現実的な、地に足のついた宇宙開発の姿、実用性を再現するアプローチだと筆者は理解している。

 武器や宇宙服、回復薬など、プレイヤーが見る・触れる要素の全てが奇をてらったものではなく、NASAが考えるような「宇宙開発物語」の雰囲気を感じさせる。またストーリーやクエストに登場する専門用語も、ファンタジー色の強いものが少なく、「2330年の人類史はこちらになります」といわれても「そうなんですね」と納得してしまいそうな内容になっている。

 ネタバレにもつながるため説明は割愛するが、遊んでいけばいくほどこの「NASAパンク」の雰囲気の良さを感じることになる。2300年という未来が舞台でありながらも、突拍子もない要素も最初は少なく、現代の延長線上を体験しているかのような感覚を味わうことができる。

ハードSF好きにはたまらない、カタルシスの連続 SFでやりたいこと全部詰め込めましたスペシャル。「Starfieldは人を選ぶ作品」の真意

 メインストーリーやサイドミッションの内容に目を向けてみると、ハードSF小説読了後のようなカタルシスを味わえる。

 洞窟でアーティファクトに遭遇するというメインストーリーをはじめ、「あ、これ●●で見たやつだ!」と再確認できるレベルで似た話が多いのだ。サイドクエストも同様だ。もしオススメのクエストを挙げるとすれば、惑星軌道上で始まった「ジュノー」は特にお気に入りのクエストだ。

 一方で、Starfieldにおける全体的な体験の評価を他のゲームと比較すると、評価は厳しくなるかもしれない。フラグが立たずに進行不可能になるという重大なバグから、ロード後に突然アイテムが宙を舞ったり、拠点内を歩くNPCが突然裸になったりするBethesdaブランドならではのバグ(仕様)が複数存在しているためだ。選択肢内の日本語文章における些細なタイプミスなどもあった。

 また店舗のクレジットが極めて安く設定されており(5000~12000)、何度か探索した後に全ての物品を売り払おうとしてもUT単位で48時間待機しなければならない点、惑星軌道上の岩石を破壊して得られる素材の数がお店の販売数量より圧倒的に少ない点、宇宙に進出した人類に重きを置きすぎて、宇宙空間の要素に遊びが少ない点など、他のゲームで場数を踏んできたプレイヤーであればあるほど、細かい気になる点が複数あると感じるはずだ。これらを理由にStarfieldをオススメしないと判断するのは理解できる。

 したがって、本当に細かくゲーム内のさまざまな要素を掘り下げていくと「これってあの作品と比べるとどうなの?」というツッコミどころがないとはいえない。筆者の場合は、メインストーリーのクエストやサイドクエストを終えた後のカタルシスが勝るため、のめり込んで楽しむことができた。細かい点に目を瞑っても本作のテーマや内容に共感して楽しめるか、それとも気になる点を無視できない、許せないと判断するのかで、本作の評価が分かれる面はあるだろう。

 最も分かりやすい例が、星系内航行が実装されていない点だ。「宇宙ゲームなのに星系内航行もできないとは……」という評価を下すことは容易だ。しかし、デメリットだけではなくメリットもある。既存のスペースシムでは当然星系内航行をするしかないが、離れている惑星であればあるほど移動に時間がかかる。外の景色が変化することはないので、ほぼ暗闇の中を30分~1時間突き進んでいくことになる。これを面白いと評価する人もいるだろうが、仕事から、学校から帰ってきて1人で毎日これを続けられる人はごく少数ではないだろうか。

 「駅近物件」が人気なように、移動はできるだけ短く済ませられるほうが、楽な部分はある。理想は、直接目的地に時間をかけて移動もできるし、ファストトラベルもできるという、プレイヤーの選択に委ねるレベルの自由度が提供されることだ。ただ、Starfieldを100時間弱遊んだ感想としては、有人星系の都市部のディテールを満喫するのに忙しく、ファストトラベル中心の設計になっていてありがたさしかないと感じた次第だ(おそらくこれでファストトラベル未実装だったらプレイ時間は平気で4桁に膨れ上がっただろう。なお、Starfieldは特定のクエスト中やドッキング中の船内などを除き、どこからでもファストトラベルができる)。

「宇宙×ハードSF×サンドボックス」というプラットフォームへの期待

 筆者の場合は、最初はMODを導入しない「バニラプレイ」にこだわった。ただ、すでに発売直後の現時点で、先に上げたようなベンダーのクレジット上限を増やすなどの気になる点を解消するMODはもちろん、FOV調整MOD、グラフィックス改善MODなど、ありとあらゆるジャンルのMODが生み出されている。

 多くのSFファンがStarfieldに集結していることから、SFファン好みのMODが登場する可能性は非常に高い。もしStarfieldを買わないのだとしても、SF好きなら、Starfieldの今後の動向をチェックしておくべきだろう。もちろん、SFファンならすぐにでも買って、何も見ずにStarfieldの世界を楽しむべきだ(ネタバレされたSF作品ほど、つまらないものはないだろう)。

 MODを入れて自分好みにStarfieldを味付けすることもできるなら、今作は大きな可能性を秘めている。エンジン自体の最適化も進んできており、1万個の牛乳パックが山の頂上から麓に落下していっても処理が重くなることはない。Starfieldが物理演算を楽しむための宇宙×サンドボックスゲーとして今後親しまれる可能性もあるだろう。

総評

 Starfieldの体験において気になる点は確かにある。Starfieldが発売前から短編アニメ作ってたのも「優先順位が違うのでは?」と思わなくもなかった。だが、そうした気になる点、突っ込みどころを差し引いても、本作を遊び続けてしまうという魅力があったことは確かだ。

 Starfieldをもし安易な一言で表現するとしたら「宇宙版Grand Theft Auto」といえるかもしれない。幅広い遊び方を提供しているのに、それぞれの遊び方が基本的には機能するレベルになっていて遊んでいてプレイに支障をきたすことはほとんどない(デシピックのミニゲームだけは……)。「宇宙での戦闘」や「ステルス」や「拠点構築サバイバル」や「武器・防具のカスタマイズ」など個別具体の要素にこだわっている他作品と比較すると劣る部分はあるが、ハードSFをテーマにした宇宙ゲーとして総合的に見ると、基本要素、やり込み要素が一通り揃っており、期待値には届かないとしても、満足に楽しめる一作にはなっているといえる。

 宇宙をテーマにした作品としては間違いなくオススメできる。まずはStarfieldがどのようなものなのか体験してみてほしい。気になる点はMODで補完するか、Starfieldを遊んだ後、もっとそれぞれの要素を深掘りしている宇宙ゲームを手にとってみるとよいだろう。

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